法話集

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読む法話 「待ってるからね」 (八代市 崇光寺 萼弘誓)

2021/12/05 00:16
 「この身は、いまは、としきはまりて候へば、さだめてさきだちて往生し候はんずれば、浄土にて かならずかならずまちまゐらせ候ふべし。」 『親鸞聖人御消息』

 このご文は、親鸞聖人が関東から京都に帰られて往生されるまで、関東各地のご門弟に宛てられたお手紙(御消息)の中にあるお言葉です。現代語に訳しますと「わたしは今はもうすっかり年老いてしまい、きっとあなたより先に往生するでしょうから、浄土で必ずあなたをお待ちしております。」という内容のお言葉です。このお手紙を受け取られた方にとって、待っていて下さる方がいらっしゃるということが、その後の人生のとても大きな励みになられたことと思います。  昨年より続くコロナ禍の今、心の病をお持ちの方の数が以前に比べて大変多くなっているそうです。先日テレビの放送で、インタビューに答える女性の方がいらっしゃいました。その方は 30 代で、忙しく仕事をされていましたが、ある日突然身体の調子が悪くなり、眠れなくなり、病院に行きますと心の病気と診断されたそうです。すぐに職場に相談し長期休暇をもらい、治療に専念する 日々を過ごされました。現在はもうすっかり身体の調子も良くなり、仕事に復帰されていますが、 療養中、職場の同僚の方たちから「待ってるからね、ゆっくり治してね」と言われた言葉が大変嬉しかったと話されていました。「待ってるからね」の一言から少し前向きな気持ちになり、「私が帰る場所はここだー!」と調子が良くなるきっかけとなられたそうです。もし、同僚の方達から「待ってるからね」の言葉がなかったら、職場はただの「行き先」でしかなく、行くのがつらいままだったのかもしれません。待っていて下さる方がいらっしゃることで、職場が「帰れる場所」となり、ご自身にとっての励みになられたのでしょう。
 私たちのこのいのちは、死んで終わりのいのちではなく、阿弥陀如来のお浄土に生まれていく「いのち」であるとお聞かせいただいています。今すでにお浄土に参られ、仏となられている先人の方々が待っていてくださっている世界がご用意されています。ただの「行き先」としてのお浄土ではなく、「帰れる場所」としてのお浄土。待っていて下さる世界を約束された人生は、それ以前の人生と全く別物になります。あとに残されるご門弟の方を想い、「必ず待っていますからね」と伝えてくださった親鸞聖人のお言葉は、現代に生きる私にとっても励みとなり、心強く響いて下さっています。
 「お浄土で待ってるからね」きっとその言葉を受け取られた方のその後の人生は、悲しいだけでは終わらせない、寂しいだけでは終わらせない、阿弥陀さまのお慈悲の中に生き抜いていく人生が開かれていくことでしょう。