法話集

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読む法話「てまえどり」 (益城町 益北組 浄恩寺 玉春勇樹)

2022/11/01 09:00
 昼食を買おうとコンビニエンスストアに立ち寄ったときのこと。
 おにぎりの棚の前に立ってどの具にしようか選びあぐねていると、「てまえどり」という見なれない単語が視界に入った。
 見渡してみると、どの食品の棚にも「『てまえどり』にご協力ください」という趣旨の啓発POP(売り場に設置されている掲示物のこと)が掲示されている。
 POPによれば「てまえどり」とは、「買ってすぐに食べるのであれば賞味期限が迫っている手前の商品を選びましょう」ということらしい。

 まだ食べられる食品を捨ててしまう食品ロスは日本国内で年間に600万トンに達するとされる。
 国民一人あたりでいえば年間で47Kg、一日で茶碗一杯分を捨てていることになる。
 食品ロスは倫理的な問題にとどまらず、資源やエネルギーの問題でもあり、ひいては地球全体の環境問題につながる課題である。
 食品ロスを削減するための工夫の一つが「てまえどり」、ということだ。

 そういえば、私には昔からとある癖がある。
 スーパーマーケットで牛乳を買おうとするとき、棚の奥にある牛乳をとりたい、と考える癖だ。
 牛乳だけではなく、おにぎりもそうだ。自分の都合だけ考えるならば、新しいほうがいいに決まっている。
 食品ロスだとか資源やエネルギーの問題だとかは自分に関係がないと頬かむりをして、自分の都合だけ考えているほうが楽なのだ。

 一方で、自分の都合だけ考えていると結局は周りを傷つけ自分も傷つくことになる、とお念仏をいただく私たちは知っている。
 あらゆる命の安らぎが自らの安らぎであるとする阿弥陀仏のありようを聞いていく中に、自分さえよければいいという考えを超えたところにこそ本当の安らぎがあることを知らされるからだ。

 自分さえよければいいという心に縛られながら生きるのか、
 自分の都合を超えて地球全体に思いを巡らしながら生きるのか。
 「てまえどり」のPOPを前にして、いよいよ昼食のおにぎりを選びあぐねることになった。