法話集

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読む法話「私を決して忘れない」 (宇土市 宇土北組 宝林寺 経智敬)

2023/08/01 09:00
御門徒のみなさんにお世話になりながら三十年が経ちました。
私が三十、歳をとった分、御門徒のみなさんも同じように歳を取られ、五十代、六十代の方々も今や八十代、九十代となられました。
三十年前は同居のご家庭がほとんどでしたが、最近はご高齢のご夫婦、一人暮らしの方が大半になりました。
歳を重ねてこられると今まで普通にできておられた日常生活にも支障が増え、病気や怪我、今後の話を聞くことがずいぶん多くなりました。

さて長年、お寺にお参りいただくおばあちゃん、ご法座は欠かしたことのないしっかりした方でありましたが年々に物忘れが増え、最近では月命日も忘れられるようになり、いろいろなお約束も出来なくなりました。

毎月の月命日にお参りしますと、後ろにきちんと座られるおばあちゃん。 
このおばあちゃんの口からは必ず南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と声たからかにお念仏がこぼれます。

お勤めが終わると
「今日は本当にありがとうごさいました」
とお礼をいただきました。その後、おばあちゃんがさみしい顔をしてこんなこと言われました。
「最近はいろんなことを忘れるようになりました、この先忘れものがもっとひどくなるかと思うととても心配でなりません」
とおっしゃられました。

この言葉を聞いた時、
私は、阿弥陀さまでよかったなと思いました。

『正信偈(しょうしんげ)』中に、次のようなおことばがあります。

  煩悩障眼雖不見
  (ぼんのうしょうげんすいふけん)
  大悲無倦常照我
  (だいひむけんじょうしょうが)

私が忘れても阿弥陀さまは決して私のことを忘れないとはたらいてくださっています。

私もみなさんも歳を重ね、やがては息子の顔も分からない、娘の顔も分からない日がやってきたとしても、私を決して忘れないと人生に寄り添い続けてくださる仏さまが阿弥陀さまなのです。