法話集

法話集

読む法話「真実の拠り所」  (玉名市 高瀬組 安楽寺 入江祥裕)

2023/10/01 09:00
 ある大学の教授が草原を歩いていました。時間を確認しようと腕時計を見ると、電池が切れ時計は止まっていました。しかしどうしても時間を確認したい教授は、辺りを見回します。するとヤギを見張っている青年が休憩していました。教授はその青年に近寄り、
「君、今何時かね?」
と尋ねました。すると青年は隣にいたヤギのお腹を持ち上げて、
「〇時〇分ですよ」
と答えました。
「適当に答えおって」
と思った教授は翌日、動く時計を持って青年に時間を尋ねました。青年はまた隣にいたヤギのお腹を持ち上げて、
「〇時〇分です」
と答えました。 そこで教授は動く時計を見て確認すると、時間はぴったり合っていました。「ヤギのお腹を持ち上げて時間が分かる?一体どういうことだ」
と思った教授はすぐに大学で研究を始めました。しかしどれだけ研究しても納得のできる答えは出ませんでした。お手上げ状態になった教授は、青年の元へ行き、
「君は、なぜヤギのおなかを持ち上げると時間が分かるのかね?」
と答えを聞きました。 すると青年はまた隣にいたヤギのおなかを持ち上げて、
「それはね、ヤギのおなかを持ち上げないと向こうにある時計台が見えないからなんだ」
と答えました。教授は今まで頼りにしてきた知識、すべてが何の役にも立たずお手上げ状態になりました。
 私達も今までの人生でこれがあれば幸せだ、安心だと頼りにしてきた健康や家族や友人。これがあればきっと幸せになれると身も心もすり減らしてまで追い求めてきた地位や名誉や財産。もちろんこれらは幸せの材料であるかもしれません。しかし命終えようとする時、これらが何一つとして私の心の支えになってはくれません。私の知識でこれがあるから幸せだ、安心だと追い求めていた一つ一つは命終わる時に何の支えにもなってはくれません。すべて置いていかなければいけません。
 抱えきることの出来ない苦しみを抱え、一人涙していかなければならなかった私に阿弥陀様は「もっと努力してその涙とめておいで」
とはおっしゃいませんでした。
「阿弥陀があなたを必ず浄土に生まれさせる。だからどうか任せておくれ。もう一人じゃない」 とありのままの私を抱き取ってくださいました。苦しみの涙を止めるすべも、手がかりも何一つ持ち合わせていない私に、阿弥陀様がお救いを全て整えて、今私たちのいのちに「南無阿弥陀仏」というお姿でご一緒くださっています。